ルーメンの 健康
テクニカルガイド

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アシドーシスの進行 (急性&亜急性)


集約的な飼養では、多くの場合に飼料中の易発酵性炭水化物の配合割合を髙くします。しかしそのような飼料は、動物に代謝障害(特にルーメン内環境の安定性の低下と亜急性ルーメンアシドーシス)を引き起こすリスクを内在しています。

ルーメン内での乳酸や酪酸の産生量が増加して発酵バランスが崩れると、アシドーシスが起こります。その進行にはいくつかの段階があります。26参考文献View allKrause K.M., Oetze G. R. 2006.
27参考文献View allEnemark J. M. D. 2008.
28参考文献View allGonzález L. A., Manteca X., Calsamiglia S., Schwartzkopf-Genswein K.S., Ferret A. 2012.
29参考文献View allCastillo-Lopez E., Wiese B. I., Hendrick S., McKinnon J. J., McAllister T. A., Beauchemin K. A. and Penner G. B. 2014.

Adapted from Nocek. 12参考文献View allNocek J. E. 1997.

 

亜急性ルーメンアシドーシス Sub Acute Ruminal Acidosis (SARA)

  • 揮発性脂肪酸(VFA)の産生量が、ルーメン内での中和能力とルーメン絨毛からの吸収能力を超えた場合に発生し、より一般的に見られるアシドーシスです。
  • 24時間のうち、3時間又はそれより長くルーメンpH が5.8 を下回ります。
  • 動物には通常、軟便や乾物摂取量の低下、蹄葉炎が見られます。
  • pHの回復が見られない場合、急性のアシドーシスに進行していきます。

急性ルーメンアシドーシス Acute Ruminal Acidosis

  • より重症度が高いアシドーシスであり、通常pHが5.5を下回った場合に起こります。あまり一般的に見られる状態ではありません。
  • 通常、急激な飼料の変更が起因となって発生します。
  • 動物の生産性は低下し、食欲の減退や心拍数の増加、下痢が見られます。場合によっては死に至ります。
  • 進行した乳酸アシドーシスの場合、時にイレギュラーな採食行動や暴食が見られます。これらの行動は酸の急激な増加をより促します。

 

指標とリスクの特徴

主要因
table-arrow-down動物の生産成績- 肉牛において日増体量と飼料効率が低下するのは、ルーメン発酵の停滞に原因がある可能性があります。
- 泌乳牛において乳量と乳脂肪、乳脂肪/乳タンパク質比率が低下するのは、ルーメン発酵の停滞に原因がある可能性があります。17参考文献View allBritt J. S., Thomas R. C., Speer N. C., and Hall M. B. 2003.
18参考文献View allAllen M. S. 1997.
19参考文献View allSauvant D. and Peyraud J. L. 2010.
table-arrow-down反芻活動
アシドーシスによってルーメンの運動性が低下する
と、反芻活動が抑制される場合があります。18参考文献View allAllen M. S. 1997.
30参考文献View allGrant R. J., Colenbrander V.F. and Mertens D. R. 1990.
table-arrow-down歩様動物の跛行は、ルーメン内のヒスタミンとエンドトキシン量が高いことを示しています12参考文献View allNocek J. E. 1997.
table-arrow-downルーメンフィル
ルーメンの充満度が低いことは、採食量が低下して、ルーメン効率が低下していることを示しています。22参考文献View allZaaijer D. and Noordhuizen J. P. T. M. 2003.
table-arrow-down糞の固さ
下痢の発生は、バランスの悪い飼料によって消化管内での通過速度と下部消化管での発酵が増加し、ルーメン効率が低下していることを示しています。20参考文献View allHall M. B. 2002.
21参考文献View allHutjens M. F. 2010
22参考文献View allZaaijer D. and Noordhuizen J. P. T. M. 2003.
table-arrow-down尾部周辺の清潔さバランスの悪い飼料によって消化管内での通過速度が増加し、消化率が低下すると、動物の尾部周辺の汚れに繋がります。
table-arrow-up未消化穀物ルーメン効率が悪く、加工済みの穀物が糞中に未消化の状態で見られる時には、飼料のバランスが悪いか飼料の消化率が低いために、飼料の通過速度が速くなっている可能性があります。 20参考文献View allHall M. B. 2002.
table-arrow-up暑熱ストレス暑熱ストレス (気温と湿度)が増加すると、下に記載する理由から、アシドーシスと飼料消化率低下のリ
スクが高まります。
>採食行動に負の影響が見られます: 明け方や夕方の涼しい時間に採食することを好みます。
> 乾物摂取量が低下します: 牛は易発酵性炭水化物を選び食いし、粗飼料の摂取割合を低下させます。
>口を開けた呼吸や流涎による唾液のロスにより、ルーメンに流入するバッファーの量を減少させます。31参考文献View allBurgos Zimbelman Rosemarie and Collier Robert J. 2011.
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健康なルーメン絨毛
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アシドーシスによって、ダメージを受けたルーメン壁

経済性への影響

ルーメンアシドーシスが経済性に及ぼす影響は甚大です。

泌乳牛では、乳脂肪率の低下(-0.76%)や乳量の低下(-10%)、繁殖成績の低下、二次的な代謝障害の増加といった経済的損失がみられます。ある研究では、アシドーシスがアメリカの乳牛業界全体に与える損失は、年間5億~10億ドル(約525億円~1050億円)と推定されています。32参考文献View allKrause K.M., Oetzel G.R. 2006.

その他の研究でも亜急性アシドーシスの損失は100頭の乳牛あたり40,170ドル(約420万円)と推定されています。40参考文献View allStone W. C. 1999.

育成及び肥育の肉牛においては、日増体量の低下(-78g/頭/日)や飼料効率の低下、肉質の低下、二次的な健康問題の増加などの経済的損失が見られます。34参考文献View allThompson P. N., Hentzen A., Schultheiss W. A. 2006.